八女福島のまちづくり30年の歩みをふり返って/「作事組全国協議会2022八女福島シンポジウム&まちなみフォーラム福岡」記録
更新日:2023年7月22日
八女福島の北島力さんから、新しい記事「八女福島のまちづくり30年の歩みをふり返って」をいただいた。八女福島は、昨年(2022年)、重要伝統的建造物群保存地区選定20周年を迎え、10月22〜23日に「第7回作事組全国協議会2022八女福島シンポジウム&第8回まちなみフォーラム福岡」が開催された。「日本の文化 民家、町家を残し伝えよう」をスローガンに、八女町並みデザイン研究会、有限責任事業組合 金澤町家、NPO法人 天橋作事組、なら・町家研究会、姫路・町家再生塾から報告があり、ふたつのパネルディスカッションが行われた。パネラーには、各地で町家等の修復・活用に取り組む人々が集結した。その結果を克明に記録した報告書は、民家・町家の保全・活用の現在をあざやかに写し出している。上の表紙をクリックするとダウンロードできるのでぜひご覧いただきたい。資料も充実しており、10ページにわたる「八女福島の町並みとまちづくりの歩み」は圧巻だ。
実は、北島さんの記事は、この報告書の編集後記がもとになっている。30年の歩みの振り返りとともに、実践にもとづいたこれからの展望が示唆に富む。
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【はじめに】
私は、八女市の職員として八女福島の町並み担当の時代から行政マンながら、一市民として「八女町並みデザイン研究会」をはじめ、「八女町家再生応援団」、「まちづくりネット八女」など複数のNPO法人の設立をサポートして支えつつ、その活動を一緒に取組んできた。行政マンと市民の両方の立場から協働を進化させるべく、まちづくりに汗をかいてきた。
町並みを活かしたまちづくりには、色々なやり方、進め方があると思うが、ノウハウはそれぞれのところで創り出していくものなので、それをどのように活かし、将来に継承していくか、八女福島では課題と目標を明確にして、八女福島のやり方で実践してきた。そこには、理念として使えるものがいくつかあると思う。
住民と行政が、それぞれの役割を共有し、車の両輪として協働を進化させつつまちづくり活動を持続していけば、いい町並みが出来ていくのではないか。だとすれば、どんな視点で、どこにポイントをおき、何を実践していけばいいのかが重要となる。
【地域の文化と歴史を前面に】
歴史的町並みの保存継承の活動は、個人の財産に関わる問題でもあり、様々な課題と向き合う複雑な取組みで、私は行政マンとして住民と協働の模索・工夫、また、一人の人間として全ての能力を注ぎ込んで取組んだ。ふり返ると、八女福島の歴史とその貴重な価値へのきづきが大きかった。町家には先人の見事な匠と脈々と育まれた人々の暮らしが詰まっている。それを経済優先のスクラップ&ビルドという価値観が優先する時代中、簡単に壊して良いのか、歴史や文化を軽んじて良いのかと、仲間とともにもがき苦しむ中でともに成長した。
全国の町並み保存地区の多くは、急速な人口減少で空き家の増加及びコミュニティの担い手不足、全国一律プレハブ型の住宅建設が主流の今日、伝統建築を担う大工や左官などの職人の激減という厳しい現実に直面している。八女福島ではこの大きな二つの課題を真正面から捕らえ、空き家再生集団と建築技術集団を発足させ、先駆的に活動を持続させてきた。この活動が高く評価され(公社)日本ユネスコ協会連盟「プロジェクト未来遺産」の第一号として2009年に登録された。そして、これまでの集大成として、活動を記録検証し次世代に継承するため、ドキュメンタリー映画「まちや紳士録」の製作に取組み、2013年から全国上映を通して多くの仲間とともに、町並み保存継承の精神とノウハウを共有してきた。
全国の仲間と繋がり、複雑で困難な課題が立ちはだかる中、常に人と人、市民と行政が響きあう協働のまちづくりを意識しながら、暮らし、命、心とともに家(町家)を繋いできた日本の「木の文化」を次世代に引継ぐ活動をこれからも持続させることで、この地域の歴史文化を磨くまちづくりの可能性を開拓したい。
【Withコロナを見据えたまちづくりの展開】
最近、八女福島では、町並みの保存整備も進み、継続したまちづくりにより魅力も高まっていることから、増えてきた来訪者に八女福島らしいおもてなしをするため、4年前から文化観光まちづくりに力を入れている。 2018年から進める空き町家を再生活用した分散型町家ホテル事業は、町家建築の歴史性及び価値を尊重しながら客室やレストラン、または店舗としてリノベーションを行い、伝統工芸に代表される地域の文化や歴史を体感できる複合宿泊施設として再生していく取組みで、コンセプトは「住まうように泊まる」であり、文化観光まちづくりのキーワードである。
一方で、3年前から新型コロナウイルスの影響でまちづくりにも大きな打撃となった。それでも、2019年6月にNIPPONIA HOTEL 八女福島商家町(2軒7室、レストラン)、2021年10月には、農業や伝統工芸などの地域資源と連携した「Craft Inn 手」(2軒3室)、2022年8月に「RITA八女福島」(1軒2室、食事処)と空き家を再生活用してオープンさせてきた。
コロナ禍であり経営は順調とまではいかないが、そこそこ経営を維持している。重伝建20周年を契機として今後、Withコロナを見据え、地域で人材を生み出し、地域の文化や歴史の魅力を更に磨きつつ、地域に根差したサービスをすることで、地域に適した文化観光まちづくりの展開を広げつつ、町並みの地域力を高めたいと模索を続けている。
〈北島力・きたじまつとむ〉
☆NPO法人全国町並み保存連盟副理事長
☆NPO法人まちづくりネット八女理事長
☆八女福島町並み保存会会長
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