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福川裕一

広がるHUL (Historic Urban Landscape) アプローチの実践、北京でシンポジウム

2019年11月14〜16日、北京・清華大学でICOMOS-CIVVIH[1]アジア太平洋地域シンポジウムが開催された。北京での開催は昨年の4月に続き2回目(前回については「町並みの国際関係事情」2018.4.21をご覧ください)。小規模とは言え、このような国際会議を去年に続き開催した清華大学建築学科のパワーには敬服する。

 テーマは「歴史的都市域の保全と再生:HULの持続可能なマネジメントへむけての取り組み(Conservation and Renewal of Historic Urban Areas - Approaches to Sustainable Management for Historic Urban Landscape)」。集まったのは、ギリシャ(前CIVVIH会長)、ドイツ2名(ひとりは現会長)、オーストラリア5名、韓国、ポーランド、フランス2名、アメリカ、ベルギー、日本、インド2名そして中国。中国以外からの参加者は18名と増えたが、アジア地域からの新しい参加国はインドだけだった。

 テーマとなったHULは、2005年のウィーン・メモランダム[2]で提起され、2011年にUNESCOの勧告「Recommendation on the Historic Urban Landscape」としてまとめられた歴史的環境保全の新しい概念である。これまでは都市の保存というとヒストリック・センター(陣内さん的にはイタリア語でチェントロ・ストリコ)と呼ばれる中心市街地が主たる対象であった。HULは、その視野を歴史的な都市域全体へ拡大しようとする。

 直接のきっかけは、世界遺産の危機である。世界遺産の周辺には一般にバッファゾーンが設定され、外からの影響を防ぐようになっている。しかし、都市開発の大規模化とともに、バッファゾーンを超えて超高層ビル群が目に入るにようになったのだ。バッファゾーンが、しばしば核となるモニュメントを際だたせるための広場などに「整備」されるモニュメンタリズムも問題になった。通常、バッファゾーン自体も歴史的な区域であり、コミュニティが営まれている。そこで、歴史的観点から都市域を捉えなおし、都市開発を律することが提起されたのだ。これに地球環境問題が加わり、「都市計画・デザイン・都市のマネジメントプログラムに環境・社会・文化を組み込み、都市開発の持続可能なプロセスを構築すること」が目標となった。

 ユネスコの勧告に掲げられた、HULの定義は以下のようだ:

HULは、文化および自然的価値と特質が歴史的に積み重なった結果と捉えられ、「歴史的中心」や「アンサンブル」という概念を超えて広がる、より広範な都市の文脈とその地理的な環境を含む都市化した地域。この広い文脈には、とりわけ、サイトの地誌・地形・水文学自然の特徴、歴史的および現代の人工的環境、地下および地上の社会基盤施設、オープンスペースと庭園、土地利用のパタンと空間構造、認識と視覚に関することを含み、のみならず都市構造のあらゆるその他の要素を含む。それはまた、社会的および文化的な行為と価値、経済的プロセスおよび多様性と固有性に関連する無形の歴史遺産を含む。

 勧告からやがて10年になろうとするが、ようやく取り組みが広がってきた。シンポジウムに集まったのは、アジア・太平洋地域でそのような活動に取り組む面々であった。都市としては、オーストラリアのバララット、インドのアーメダーバドードとハイデラバード、マレーシアのペナン(ジョージ・タウン)、中国の上海その他での実践が報告され、またアメリカのゲッティ財団や上海に拠点を置くアジア大西洋地域世界遺産研究所(WHITRAP[3])が提供するトレーニングコースなどの取り組みが紹介された。

 とここまで書いても「一体具体的に何をするの?」と思われるだろう。ここでは、The HUL Guidebook(2016)[4]に紹介されている「HULアプローチの6つの重要なステップ」を引用しておこう[5]:

1. 総合的な調査を行い、その都市の自然・文化・人間的資源をマッピングし;

2. 参加型計画や利害関係者との協議によって、将来の世代へ受け渡すためにどのような価値を守るかについて合意し、これら価値が備える特性を明らかにし、

3. これら特性の、社会経済的ストレスや気候変動の影響に対する脆弱さを見極め;

4. 都市遺産の価値とそれらの脆弱的状態を、都市開発の幅広い枠組みに組込み、都市計画・デザイン・都市のマネジメントプログラムに細心の注意を要求する歴史遺産が影響を受けやすい地域の表示を提供し;

5. 保全と開発への行動に優先順位を付け;

6. 保全と開発のために特定されたプロジェクトごとに適切なパートナーシップと地域の管理フレームワークを確立し、公私にわたる異なる主体間のさまざまな活動を調整するためのメカニズムを開発する

 なーんだ、昔からやってきたことではないか、と思われるかもしれない。確かに方法論としては、少なくとも前半は、昔から言われ実践してきたことだ。しかし、よほどの先進的歴史都市でもない限り、後半に到達したところは少ない。実現はこれからだ。

 HULのポイントは、やはり、保全の対象を、歴史的中心から都市域全体へ拡大したことである。日本では、その実践として2008年に歴史まちづくり法が制定されている。歴史まちづくり法の正式名称は「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」、英文名はThe Law on the Maintenance and Improvement of Historic Landscape in a Communityである。まさにHUL法であり、この点では先進的と誇ってよいと思う。

 しかし現実には、このホームページでも、重伝建地区外の町づくりが多くの課題をかかえていることをみてきた。たとえば京都がその例である。北京のシンポジウムでのプレゼンテーションで、私は、倉敷を事例に日本の都市のHULを確認し、HUL法としての歴史まちづくり法の課題を述べ、新しい枠組みの必要性を述べた。

 具体的な解答は簡単に見つからないが、チャレンジは続ける必要がある。このテーマは、第42回川越ゼミの第一分科会へひきつぎます。

***

発表したプレゼンテーションは下記からダウンロードできます。

また、12月1日開催の「でんけん川越まちづくりシンポジウム」でも同種の内容を話しました。スライドのPDFを下記からダウンロードできます。

(注)

[1] CIVVIHはICOMOSのもとにある28の下部組織のひとつでInternational committee on Historic Towns and Villages。今年の会議で英語名をInternational committee on Historic Cities, Towns and VillagesとするようICOMOSへ要請する決議がなされた。

[2] VIENNA MEMORANDUM on “World Heritage and Contemporary Architecture – Managing the Historic Urban Landscape

[3] WHITRAP: World Heritage Institute of Training and Research for the Asia and the Pacific Region

[4] 同済大学とWHITRAPが設けたTHE HISTORIC URBAN LANDSCAPEのホームページなどからダウンロードできます:http://historicurbanlandscape.com/themes/196/userfiles/download/2016/6/7/wirey5prpznidqx.pdf

[5] Francesco Bandarin & Ron Van Oers: Historic Urban Landscape: Managing Heritage in an Urban Centuryに、ICOMOSの内部文書として引用されている。同書はHULの教科書的存在。わが町並み憲章も数ページにわたって紹介されています。

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